神戸新聞は2023年度と翌24年度の2年連続で新聞協会賞を受けました。
2024年度は写真連載企画「里へ 人と自然のものがたり」(里へ取材班 代表・編集局映像写真部 小林良多)です。
「里へ」は22年4月から24年3月まで掲載。人口減少や生活スタイルの変化、外来種問題などがもたらす人と自然界の関係の変化をテーマに、レンズを通して野生動物や人の営みを紹介しました。ドローンやウエアラブルカメラなどの機器で生きものたちの姿に迫り、23年10月には民家の裏庭に現れたツキノワグマを自動撮影カメラで捉えることに成功しました。
新聞協会賞の授賞にあたって同協会は「新たな機材を駆使した撮影手法が効果を発揮し、野生生物の姿を活写した。鮮やかな色彩と光の濃淡を生かす写真表現により、バリエーション豊かな紙面に仕上げた」と評価。「気候変動や外来種など生態系の課題にレンズを向け、変化する自然との関わり方を問いかける質の高い企画」と意義付けました。
23年度は「神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄スクープと一連の報道」(「失われた事件記録」取材班 代表・編集局報道部デスク兼編集委員 霍見真一郎)です。
神戸新聞は22年10月20日付朝刊で、1997年の神戸連続児童殺傷事件で逮捕された当時14歳の「少年A」に関する全ての事件記録が廃棄されていた事実をスクープしました。さらに、全国で重大少年事件の記録が機械的に廃棄されていた実態も明らかにし、専門家へのインタビューや連載企画で事件記録を適切に保存するよう訴えました。
最高裁は今年5月、記録廃棄の責任を認めて謝罪し、第三者委員会を設置するなどの再発防止策を講じるとしました。
日本新聞協会は一連の報道について「国民の共有財産としての事件記録の意味を問い続け、最高裁の謝罪を引き出すとともに記録保存制度の改善に道筋をつけた」と評価。その上で「埋もれていた事実を掘り起こし、司法の認識の甘さを改めさせた調査報道として高く評価される」と授賞理由に記しました。
「失われた事件記録」取材班 代表
編集局報道部デスク兼編集委員
地方紙に全国を相手にした仕事はできないのでしょうかー。そんなことはありません。事件記録廃棄問題では、神戸新聞が報道をリードし東京の最高裁が動く、という展開をたどりました。地方には、全国に通じる課題の「鉱脈」が埋まっています。素朴な疑問を大切にし、足元の課題を丁寧に掘り進めれば、国の制度を動かすことにもつながります。われわれ地元紙記者には、この地で読者とともに生きる責任と覚悟があります。文字通り、地に足を着けた取材や報道を、みなさんと一緒にできる日を楽しみにしております。
日本新聞協会が年1回、優れた報道の担い手に贈る賞です。
社会の動きをいち早く伝えるため、ものごとの核心に迫るため、記者は日々、取材に駆け回っています。あらゆる現場を踏み、さまざまな人に話を聞き、入手できる限りの資料を読み込みます。小さな変化を見逃すまいとして、常に目を凝らしています。
歴史的瞬間を伝える一報、公的機関や企業が隠してきた事実の追及、社会の中で孤立し、苦しむ人への支援を促すキャンペーン―日々の取材の積み重ねの中から、時に社会を揺るがし、人々の意識を変え、世の中を動かす報道が生まれます。
日本新聞協会は、こうして報道を手掛けた記者に「新聞協会賞」を贈っています。
小林 良多記者
「里へ」取材班 代表
編集局映像写真部
地方紙の写真記者として目を凝らしたいのが地域の変化です。人だけでなく、身近な自然環境が発するメッセージを伝えることも大切です。野生動物の市街地出没など、全国で起きている異変を兵庫でも感じ、「人と自然の関係」を探る写真企画に取り組みました。仲間と工夫を重ね、象徴的な民家裏のツキノワグマの姿を捉えることができました。カメラは対話の道具でもあり、地域の魅力、課題を伝えるため、力を借りて現場に立つ感覚があります。写真や動画に関心がある方は、そのセンスがきっと生きる仕事だと思います。