新型コロナウイルス感染症も5類に移行し、日常の暮らしが戻りつつあります。足かけ4年に及んだパンデミックは、社会に大きな影響を残しました。人と人をつなぐメディアの役割は、これまで以上に大切になってきたと感じています。
ネットの世界で、不確かな情報が飛び交う一方で、身近な医療情報をはじめ、地域の確かなニュースへの関心はこれまで以上に高まりを見せています。量と質において他紙を圧する地元情報を、紙とデジタルでお届けする神戸新聞として、ポストコロナの時代へさらなる使命を与えられたと、思いを新たにしています。
明治の創刊から125年、神戸新聞は元号で数えて5つ目の時代に入りました。この間、大正の米騒動、昭和の空襲、平成の阪神・淡路大震災と3度にわたり本社屋を失いながら、休むことなく発行を続けてきました。なかでも大震災は、地域にとってのメディアの役割、記者の存在意義を問い直した出来事でした。
その震災からちょうど四半世紀の年、コロナ禍が起きました。コロナ後の時代を見据え、グローバル化の一方でローカルを見直す流れが強まっています。地域の力と魅力があらためて問われる時です。地域メディアの役割が今こそ試されています。
とりわけ報道では、アンフェアな問題を掘り下げるジャーナリズムの力が問われます。本紙は2023年度、神戸連続児童殺傷事件の全記録廃棄のスクープで新聞協会賞を受賞しました。2020年度の教員間暴力のスクープに続く協会賞受賞で、今後も地域の埋もれた問題を世に問う取り組みを続けます。
今、さらにステージを変えようとしているのが、デジタル分野です。プラットフォーマーや生成AIなど技術の進展と同時に、フェイクニュースへの懸念が強まり、ネットの世界でも確かな情報がこれまでにも増して求められています。
そうしたなか、神戸新聞は地方紙の中でも先駆的にデジタル発信に力を入れてきました。電子版「神戸新聞NEXT」に続き、関西初の柔らかニュースサイト「まいどなニュース」を手がけ、多くの皆さんに利用いただいています。これらの経験を生かし、さらに踏み込んだ新サービスを目指しています。
グループ企業も多彩です。スポーツ紙「デイリースポーツ」を全国規模で発行し、ネットでは「デイリースポーツオンライン」が好評です。「よろず~ニュース」も始めました。サンテレビジョン、ラジオ関西、京阪神エルマガジン社や、神戸・三宮の「ミント神戸」でおなじみの神戸新聞会館など、計21社でメディアグループを形成しています。
新たな分野にも乗り出しています。デジタル動画のサイトを運営する「ジェッソ」、古民家再生やホテル展開などでまちづくりをお手伝いする「PAGE」、ビジネス成長拠点「アンカー神戸」、スタートアップ支援の「ワークプレイス神戸」など、地元の自治体、大学、企業と手を結んだ取り組みで、地域の皆さんのお役に立てるよう総力を挙げます。
こうしたチャレンジのバックにあるのが、自由な社風、気風です。社員が働きやすい環境を目指して「ワーク・ライフ・デザイン宣言」を掲げ、女性活躍や多様な働き方を後押ししています。
これからの5年、10年、兵庫、神戸は大きく動く時を迎えています。都心やウォーターフロントでは再整備が本格化し、2025年の大阪・関西万博を経て、2030年には神戸空港の国際空港化が控えています。一極集中の弊害があらためて指摘される今、地域をどうアピールするか、地元メディアの出番です。
「私たちは公正に伝え、人をつなぎ、くらしの充実と地域の発展につくす」。創刊120年を機に神戸新聞社は社是を改定しました。ポストコロナの時代へ、「人をつなぎ」の文言はさらなる今日的な意義を付け加えられたと考えています。
若い皆さんの発想力と行動力に期待しています。
神戸新聞社 代表取締役社長 高梨柳太郎
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